雲一つない青空と太陽の光がキラキラと反射する海を横目に僕は車を走らせていた。
「気持ちいいねー。」
「いい天気で良かったよ。ちょっと窓開けてみよっか。」
半分ほど開けた窓から、潮の香りが車内を通り抜けて行く。
風に舞い上がった女の髪の甘い匂いが鼻をくすぐる。
心地良い風の音に混ざり、車のスピーカーからピアノの静かな音色が流れ始めた。
いい雰囲気だ。
と、思った瞬間
ドォン!!タァン!ドンドン!!タァン!!
・・・・低音強化のスピーカーが急に張り切り始めた。
「オオオーイ!」
(タイ人が驚いた時の感嘆詞)
と心の中で叫んだ。
急にいい雰囲気ぶち壊しだよ・・・。
だが、今更スキップするのも憚られてそのまま流し続ける。
「アルコールを浴びて今日も逃避する現実・・・」
そう。始まったのはGADOROの「クズ」だった。
目の前の景色に不釣り合いなGADOROの生活を二人で黙って聴いた。
しばらくして彼女はこう言い放った。
「なんでこの人ずっと不幸自慢してるの?」
日常生活の不幸自慢はウザい
はい、じゃあ普通にブログを始めまーす。
今回取り上げたいのは、HIPHOPの曲によく見られる自身の生い立ち、特に不幸な境遇をリリックにする事についてだ。
あまりHIPHOPを聴かない人からすると、「なんで不幸自慢してんの?」
となるのは当然の反応だ。
普段の生活ではツラツラと並べ立てられる不幸自慢を耳にする事は少ない。
「つらたん つらたん ぴえん ぴえん」
ばっかり言われたらメンヘラかよ。と思う。
人の不幸自慢なんて非常にどうでも良い。
「あなたが物凄く不幸だって事を一生懸命語って何になるんですか?
愚痴ですね?まぁ聞くだけ聞いてあげますよボランティアとして。」
と思う。
なのになぜHIPHOP界では当たり前の手法として使われているのか?
を考えていく。
不幸自慢のバリエーション
①セルフボースティング型
〜ANARCHY、T-Pablow(BAD HOP)〜
最初に不幸な境遇をツラツラと語り、”だがしかし”乗り越えて俺はここまで成功した。とセルフボースティングに続けるタイプ。
一番多いタイプで、不幸自慢と成功自慢は基本的にセットになる。
ANARCHYのようなオラオラ系ラッパーにはこのタイプの曲が多い。
また、BAD HOPも川崎のワルから成功して「カップ麺からロブスター」にレベルアップする。
②ネガティブな感情を入れず淡々と語る型〜ZORN、SALU、KOHH〜
通報され家にPOPO
No Pain No Gain feat. ANARCHY/ZORN
ヒステリックな母親 手に包丁
よく面会しに行った精神病棟
別にただのよくあるエピソード
不幸自慢かと思いきや、辛かったアピールをせずに「ただのよくあるエピソード」で終わらすZORNの様なタイプもいる。
同じタイプとして、SALUも最近出たアルバム「GIFT」でなかなかの過去を吐露しているが、ネガティブな思いは殆ど入れずに淡々と語っているだけである。
ほぼ全てのリリックをポジティブな形で締めている。
KOHHはどこに入れるか迷ったが、
「貧乏なんて気にしなーい」
と言っていたのでおそらくこのタイプに入る。
ちなみに僕はこのタイプが一番感情移入出来る。
③弱さを全てぶちまける型
〜GADORO、狐火〜
GADOROは最近では①も増えてはいるが、基本的にはこっちだ。
「つらたん つらたん ぴえん ぴえん」
と辛い境遇をツラツラと語り、自分の弱さを全て露呈するタイプ。
負け犬の音楽と言っても過言ではない。
自分の弱いところを曝け出し、共感や同情を得るのに終始するこのタイプはポエトリー系に多い。
狐火、GADORO、神門、SHU-THE、不可思議/wonderboyなど。
自分と同等、もしくはそれ以上の苦しみを味わっているリスナーと苦しみを分かち合う。
悪く言えば傷を舐め合っているとも言える。
自分の”弱さ”にアイデンティティを置く人々
貧乏、親の離婚、いじめなどの不幸な境遇と同じぐらい、最近ではADHD、発達障害、愛着障害、最近流行りのHSPなど精神障害や精神病などを自分から発信する人間は多い。
Twitterのプロフィールに注釈の様に書く人はこの世に溢れている。
自分の押し出すべきアイデンティティの様に扱っている人が多いのが、僕は気になる。
ドストエフスキーの「罪と罰」のセリフを思い出す。
「何かちょっとした悩みがあると、まるで雌鶏が卵でも抱くみたいに、後生大事にそれを持ちまわる!」
ドストエフスキー「罪と罰」より
「こんなに辛い私」
に同情をもらっても何にもプラスにならない。
弱さを共有することは結局のところ「癒し」にしかならない。
生きる”だけ”を主眼に置くなら無駄では無いが、「癒し」から「やる気」に変換出来ないままでは何も変わらない。
ならリリック中に「癒し」から「やる気」に自動的にしてくれるセルフボースティング型を聴いていた方が僕はよっぽど建設的だと思う。
だが一方で「癒し」を求めるのは人間の性だと認めざるを得ない。
次の項目で掘り下げる。
HIPHOPと宗教
共感もしくは理解される事こそ人間が求める最大のものである。
宗教はその為に存在すると言っても過言ではない。HIPHOPも宗教と同じ役割を担っていると言える。
例としてキリスト教について考えていこうと思う。
キリスト教徒で作家の遠藤周作は、キリスト教に懐疑的な視点の作品が多い。
映画にもなった「沈黙」はキリスト教禁止令の最中、日本に来た宣教師の不遇と信仰への葛藤を描いている。
仲間の死、拷問、教徒の裏切りなどを経験し「神は何も救ってくれない!」と嘆く。
そして信仰か死か二択の状況に追い詰められた時、悟りを開く。
「神はいつも自分のそばにいた。
ただ、同じ苦しみを味わっていた。
ずっと苦しみを理解してくれていたのだ。」
”神は求めるものではなく、恵みを与えてくれるのでもなく、ただそばに居てくれる”と彼は理解した。
分かりやすく言えば、
”自分の苦しみや喜び全てを理解してくれる人がいると言うのは何にも代えがたい事だ。それが救いになる。”
というメッセージであり、それが宗教の本質だ。
その点から見るとGADOROや狐火は、弱い人々に「一人じゃない」と救うキリストと同じ役割を果たしているのかもしれない。
「沈黙」は2017年に映画になっており、みんな大好き窪塚洋介もめちゃめちゃ良い役で出ている。記事下の「amazonで見る」ボタン押すとアマプラでタダで観れる。
ていうかamazon prime 会員だと500円で映画も観れるし、amazon musicも使える。この記事で紹介している曲もZORN以外ほぼ聴ける。
お得すぎて訳分からん。無料体験中らしいのでどうぞ。
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まとめ
〜宗教に入ったままでいいの?〜
色々言ったが、宗教に頼らないで生きていくのが理想だ。
だってそうでしょう?
宗教に入っている人を
「宗教信じてんの?まじ?バカじゃね?」
とあんなに蔑むのに。
ねぇ?
じゃあ強くなりなさいよ。
弱さと言う傷を舐め合ってないで、
「癒し」を「やる気」に変換して「強さ」を手に入れなさいよ。
・・・クサ
「weakness」という傷をdepend on each otherしてないで、「healing」を「Motivation」にconversionして「strength 」を・・・
意識高いサラリーマンver.だよ。
ごめん・・・。
音楽に救ってもらってるか、宗教に救ってもらっているかの違いなんて微々たるものだよ。
原作をそのまま映像化した様な映画なので、文字で読まなくても良いと思うけど活字派はこっちで。
番外編:B’z『CHAMP』にみるJ-POP界のセルフボースティング
ポップやロックではあまり自分の生い立ちについて歌詞にする事は少ない。
完全に無い訳ではないが、HIPHOPと比べて圧倒的に数は少ない。
数少ないセルフボースティングについて、B’zの『CHAMP』という曲がある。
B’zは日本のロックバンドとして知名度や実績からも誰しもが認めるCHAMPである。
この曲ではサビに「I’m a CHAMP!(俺はチャンプだ!)」と高らかに繰り返す。
いくら名実共に認められたB’zとはいえ、肝っ玉が座ってなければなかなか出来る事ではない。
HIPHOP的なセルフボースティングの手法で作られたこの歌詞は更に、
呆れた眼差しでサヨナラするがいい
CHAMP/B’z
非常識な奴と名前を書き込むがいい
かまやしないさ望むとこ
この寂寥感この逆風感
それさえ君らの憧れだろ?
と歌う。
『トップを走り続ける俺らにも辛い事あんだよね。わかる?・・・・・あー!わかんねぇか雑魚共には!ごめんごめん!この辛さすら君たちは味わえないんだもんね!』
とでも言いたげなこの歌詞は、非常にHIPHOP的な匂いを感じる。
だが、驚く事にこの曲は強烈なセルフボースティングに見えるが、
「あれはセブンイレブンの歌です。」
とボーカルで作詞の稲葉浩志は語っている・・・。
自分達の事じゃねぇのかよ!!
こんなに熱くさせたくせに・・・・
責任取ってよ・・・!
とAVの様なセリフが出てきちゃうわ。
自分の内面や人生を歌詞にして、それに感動するリスナーが居る。それだけのことじゃないか。それを不幸自慢だ、ただの悪自慢だの下らないものだと批判するのならば世の中の小説、詩、絵画、映画等の他の芸術も同様に下らないものとなってしまうだろう。もう一度そのあたりをよく考えるといい。他の芸術でも単なる不幸自慢、悪自慢、幸福自慢、恋愛自慢、などなどただ自分の考えていることを作品にして自慢している、だけの事に過ぎなくなってしまう。
[…] HIPHOPの不幸自慢はキリスト教〜T-pablow、KOHH、GADORO〜 雲一つない青空と太陽の光がキラキラと反射する海を横目に僕は車を走らせていた。 「気持ちいいねー。」「いい天気で良かったよ […]
知識浅すぎて話になりませんね、読んでてこっちが恥ずかしくなりました笑